「親の物忘れが増えてきた。銀行の手続きができなくなったら、どうすればいいのか」。こうした心配が出てきたときに知っておきたいのが、成年後見制度です。
成年後見には、任意後見と法定後見の2つがあります。一番の違いは、誰が後見人を決めるかです。
2つの制度の比較
| 項目 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 使える時期 | 判断能力が十分にあるうちに契約します | 判断能力が低下した後に申し立てます |
| 後見人を決める人 | 本人が選びます | 家庭裁判所が選びます |
| 頼む内容 | 契約で、本人が決めます | 法律と家庭裁判所の審判で決まります |
| 手続き | 公証役場で、公正証書の契約を結びます | 家庭裁判所に申し立てます |
| 始まる時 | 判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時 | 家庭裁判所の審判が確定した時 |
| 本人がした契約の取消し | できません | できます(日用品の買い物などを除きます) |
| 監督する人 | 任意後見監督人(必ず選ばれます) | 家庭裁判所(必要に応じて監督人が選ばれます) |
法定後見の特徴
すでに判断能力が低下している場合に使う制度です。本人、配偶者、四親等内の親族などが、家庭裁判所に申し立てます。判断能力の程度によって、次の3つの類型に分かれます。
- 後見:判断能力を欠くのが通常の状態の方
- 保佐:判断能力が著しく不十分な方
- 補助:判断能力が不十分な方
知っておきたい点
- 後見人は家庭裁判所が選びます。候補者として家族を挙げることはできますが、そのとおりになるとは限りません。財産の額や内容によっては、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれます。
- 専門職が選ばれた場合は、報酬がかかります。額は家庭裁判所が決め、本人の財産から支払います。
- 目的の手続きが終わっても、後見は続きます。「預金を解約するためだけ」「家を売るためだけ」に使うことは、現在の制度ではできません。
- 申立てから審判まで、通常2〜4か月かかります。
成年後見制度は、利用しやすくするための見直しが進められています。最新の情報は、法務省や家庭裁判所の案内をご確認ください。
任意後見の特徴
判断能力が十分にあるうちに、「将来、判断能力が低下したら、この人に、これを頼む」と決めておく契約です。公証役場で、公正証書によって結びます。
良い点
- 信頼できる人を、自分で選べます。
- 頼む内容を、自分で決められます。預貯金の管理、施設の入所契約、自宅の扱いなどです。
- 報酬の有無や額も、契約で決められます。
注意点
- 契約しただけでは、始まりません。判断能力が低下した後、家庭裁判所に申し立てて、任意後見監督人が選ばれた時に、効力が生じます。
- 任意後見監督人の報酬がかかります。額は家庭裁判所が決めます。
- 取消権がありません。本人が不要な契約をしてしまっても、任意後見人の立場では取り消せません。訪問販売などの被害が心配な場合は、法定後見のほうが向いていることがあります。
- 亡くなった後のことは頼めません。葬儀や片付けは、死後事務委任契約で別に定めます。
任意後見と一緒に考える契約
任意後見契約は、結んでから実際に始まるまでに、何年も間が空くことがあります。その間を支えるために、次の契約を組み合わせます。
- 見守り契約:定期的な連絡や訪問で、ご本人の様子を確かめます。判断能力の変化に早く気づき、任意後見を始める時期を逃さないためのものです。
- 財産管理等委任契約:判断能力はあるが、体が不自由で銀行に行けない、といった場合に、支払いや手続きを任せます。
- 遺言書:亡くなった後の財産の行き先を決めます。
親の様子が気になるとき、今できること
- 本人の考えを聞いておく。誰に頼みたいか、自宅をどうしたいか、どこで暮らしたいか。
- 財産の全体を把握する。通帳、保険、不動産、年金、借入れを一覧にします。
- かかりつけ医に相談する。判断能力の程度は、制度を選ぶ分かれ目になります。
- 判断能力があるうちに、契約や遺言を検討する。任意後見契約も遺言書も、判断能力が低下した後には作れません。
- 地域の窓口に相談する。お住まいの地区の地域包括支援センターで、介護や暮らしの相談とあわせて相談できます。
行政書士に頼めること・頼めないこと
当事務所では、任意後見契約書・見守り契約・財産管理等委任契約の文案作成と、公証役場との調整をお受けしています。任意後見契約書の作成は、100,000円(税抜)からです。公証役場の費用は別途かかります。
法定後見の申立書や、任意後見監督人の選任申立書など、家庭裁判所に提出する書類の作成は、司法書士・弁護士の業務です。行政書士は作成できません。当事務所では、制度のご説明と、どの専門家に相談すべきかのご案内を行います。
この記事は、2026年10月11日時点の制度にもとづく一般的な説明です。個別の事情によって、必要な手続きや結論が変わることがあります。